「虐殺器官」
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA) [文庫]
伊藤 計劃 (著)
伊藤計劃のデビュー作。
凄い凄いと噂にはなっていた作家だが、最初に本書を開いたのが、311の大震災の直後だったもので、数ページ読んだまま、最近まで閉じて置いた。
導入の、見た目や色彩だけでなく、匂いや手触りまで克明に描かれている戦場描写があんまりリアルで、体調を崩していたこともあり、ちょっと受け付けなかったのだ。
ようやく落ち着いて読める環境になり、改めて読みなおしてみた。
・・・。たしかに。これはすごい。
911後の世界の要素それぞれを、そのまま直線定規でまっすぐに未来方向へと推し進めた世界。読み進めるにしたがって、この定規のブレの無さを随所に感じる。
本当に正確に、ある意味冷徹に現在の世界を精密測定し、ファンタジーにつきものの外挿要因(※1)を極力減らした上で、レーザーポインターの如く正確に未来世界を投影する。
大抵の、特にデビューしたての作家は、そもそも現代社会の把握が曖昧で、上手くできてないことが多い。(それだけ、現代はフクザツになったともいえるけれど)どうしても作者自身の宗教観やヒューマニズム、ヘタをしたら単なる無知等によって、イビツになった世界認識が底にあり、その上にイメージを積み上げるため、たんなる「夢ものがたり」になってしまうことが多々ある。
もちろん、そういうファンタジーも面白いのだが、伊藤計劃はソコがまず違う。
徹底的にリアリスト、あらゆる物を繊細な感受性で感じ取り、切り取り、組み合わせ、クールに俯瞰し、そこにつながる次の世界を構築していく。
ハードSFの巨匠、谷甲州氏がかつて「宇宙戦艦を描くなら、(まだ開発されていないエネルギー(※2)等はおいといて)現代のテクノロジーの延長で使われるであろうボルトの一本一本の構造、材質まですべて考察する」と言っていた。(要出典w たしか航空宇宙軍史のあとがきだったと思うけど・・・)
こうした、ハードSFのメソッドを丁寧に丁寧に履行して、繊細なタッチで考えぬいて描いた未来のイメージ。普通、デビューしたての新人が描ききれるものではない。しかも、そのキャンバスには全地球・全世界が乗っているのだ。
それは、伊藤計劃だけにイメージできる、そして、このまままっすぐ進むとしたら世界中が共有するであろう未来(※3)。
本書はそんな世界の、純粋でピュアな物語なのだ。
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※1)エクストラポレーション:外挿法といわれる、現実の世界法則に、何か違うものを挿入して生まれる新世界を描くSFの手法。(つまり「もしもボックス」がもしもあったら?? というやつね、あ、これはメタSFだw)ここではネタバレになってしまうので、この物語で何が外挿されているのかは書きませんが、なんか、いわれてみればそうかも、ありそうかも?と思わせるのもSF作家の腕の見せ所。それもこの作品はめちゃくちゃ巧いです。
※2)この、「おいといて」の部分が(※1)のエクストラポレーションなわけですね。
※3)ご存知のとおり本作は、911テロ以降の世界。ただし311の震災がなかった世界の延長未来です。上の本文中にはあえて書きませんでしたが、伊藤計劃は311を知らずに故人となっています。(謹んでご冥福をお祈りします。)氏の研ぎ澄まされた感受性で、震災以降の世界が描かれていたら。と思うと残念でなりません。
てゆーか、これがデビュー作なんてすごすぎ!!(←本音)
「MAKER’S NOTEBOOK」
MAKER’S NOTEBOOK
MAKERのMAKERによる、MAKERのためのノート。
設計図や回路図の製図・デザイン図用に特化したノートなんですが、これ、あらゆる点で今まで使ったことのあるノートを凌駕するクオリティを持っています。
書きやすさはもちろん、1/10インチ方眼という日本じゃまずお目にかからない方眼サイズがまず素晴らしい。表紙裏にインチ・ミリ対応スケールも当然装備。
そんなんインチの定規があればことたりるでしょ? という向きもありますが、アメリカで普通に使われているサイズの「方眼」であることがやっぱり重要なんですね。
ちょっと前までは3.5インチや5.25インチ定規が手元にたくさんあったんですが、それも最近は見当たらないので、特に海外とのやりとりで、直感的に理解できるサイズの原器があることはとってもありがたいのです。
(さらに、この原器は自由に書き込めてしまう!画期的!w)
「あたらしいみかんのむきかた」
あたらしいみかんのむきかた [単行本]
これはあたらしい!!
去年末に噂になっていた本。しばらく品薄だったようだけれど、ようやく見かけたので手にとってみました、ら、噂にたがわずめちゃくちゃ面白いww
みかんの皮の画期的でアーティスティックな向きかたをひらめいた「むきお」君が、大晦日のうちに家族をまきこんでむいてむいてむきまくり、にんげんとしてもひとかわむける前半12章。
明けてみかんの皮元年、皮むきの歴史が変わるお正月にむきあげたのこり13章。しめて全25章からなる、あたらしすぎるミカンの向きかたの指南書であり、少年の成長の記録(笑)です。
「一休」 ~ 風狂の精神

「一休」 ~ 風狂の精神
西田正好
講談社現代新書
とんち和尚で有名な「一休」の真の姿を現代に伝えてくれる良本。
TVアニメで見た程度の知識しか無かったのだが、「一休さん」とさんづけでいまだに庶民から慕われる禅僧は、なるほど、こういう怪物であったか。
めっちゃ快挙です!!
すごい!!
虐殺器官は先日(ようやく)読んだのだけれど、まだハーモニーは未読なのす。なので、褒めたくても褒められないのですが、このニュースはめちゃくちゃ絶賛に値する!!ということで鼻息荒くポスト。
はやく読まなくっちゃだわ~。
Self‐Reference ENGINE

Self‐Reference ENGINE (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション) [単行本]
円城 塔 (著)
ハヤカワSFシリーズJコレクション創刊5周年記念作品
むちゃくちゃでごじゃりまするがな(笑)
えっらい面白い。けれど、この面白さがわかる人がどれだけいるのかナーと最初ちょっぴり心配になる・・・。
のだけれど、どんどんと先に読み進めざるを得ない軽妙な文体、短めにまとめられた一編一編はそれぞれが優秀なスラップスティックな短編としても十分になりたつ。
さらに短編たちが集まってひとつの中編をなし、また、コッチ側(Nearside)と、アッチ側(Farside)の中編が二つそろって長編となる。
まったく無関係で無作為にバラバラなようで、どこかしら連結されうるお話たちの魅力的な構成。
ギミック的にはなんともはやウルトラマニアックなSFではあるけれど、マニアじゃない人にこそ「わけわかんねー(笑)」と言いながら読んで欲しい。
わからんのは最初だけ・・・いや、最後までわからないかもしれない。でも、読んでいくうちになんとなくハマるから、我慢して後半まで読んで、お願い!
「嵐を呼ぶ動物ライフ」
『嵐を呼ぶ動物ライフ』
野村潤一郎著/情報センター出版局
カッコいい生き方を貫いている動物バカ(本人曰く、超変態動物オタク怪人)獣医さんの感動日常(!)記。
自ら怪物館と呼ぶ自宅には、常時120頭を超える珍獣(子供たち)が、筆者の収入と愛の全てを注ぎ込まれ愛育されている。
その子供たちとの愛あふれる交流のエピソードの数々が良い。幕間の、動物バカ仲間たちと共に幻の爬虫類を求めてニューギニアのジャングルに至る探検記もGood!!
エセ・ナチュラリストが横行する現代において、「甘っちょろい愛情」や「ニセモノの正義」を決して許さない武闘派な動物馬鹿一代。
いいね、カッコいい!
著者に関してはなんの予備知識も無く、タイトルとコミック風の挿絵に引かれて手にとったのですが、大当たりでした。
なんでもタモリのTVによく出ていた有名人なんだそうだが、そんなことを知っていたら逆に読んでなかったかも。
そんな偏見をぶっ飛ばす、パワーあふれる本でありました。
物言えぬ動物たちの言葉を代弁し、愚かな人類に鉄拳制裁を加えかねないスーパー獣医さんの生き様は、現代人に命の素晴らしさと自然の尊さを教えてくれます。そいでもって笑えます。
抱腹絶倒のエピソードのそれぞれに込められた動物や命への愛。大声で愛してるぞ!と叫んでいるような文章が素晴らしい。
残念ながら人間であるところの自分の立場をわきまえつつ、常識など糞食らえ、薄っぺらいヒューマニズムなどオトトイ来やがれ!そんなくだらないものよりは動物への愛を優先する!!と公言してはばからない筆者。己の立ち位置=スタンスをきっちりと決め、そこからの発言している男の生き様はしっかりと安定していて力強い。(いくら常識人から変人と思われようとも)
守るものが多いほど、人は強くなれると言う。120頭もの(物凄く手がかかる)子供たちを家族に迎え、戦いつづけるお父さんは、とてもパワフルでビューティフルだ。
いやあ、ぜひお友達になりたいなあ、この獣医さん(笑)
それにしても文章が上手い。所々にオタク心をくすぐるネタもちりばめられているし・・・。ほんとに獣医さんかい、このひと?(笑)
「人民は弱し 官吏は強し」
星新一著、『人民は弱し 官吏は強し』(新潮文庫)
あの、ショートショートSFのカミサマ、星新一の異色作。氏のお父上、星一(ほし・はじめ)の伝記です。
時は明治末。アメリカ留学帰りの星一(ほし・はじめ)が夢と正義に燃えて製薬会社を作り、国のため、人のために苦心して業績を伸ばす。だが、同業者から嫉まれ、利権と保身しか考えない官憲の執拗な妨害に会い、会社は次第に窮地に追い込まれていく・・・。
本当に腐敗した官僚組織がムカツク。はらわた煮え繰り返る。
少しずつは良くなってはいるんだろう、が、今の日本もあんまり変わらない気がする。
本当に日本は民主(民に主権がある)国家ではなく、官僚主権国家なのだなだという事がわかる。
日本人にとって政治とは、(フランス等のように)下のものが血を流して奪い取った権利ではなく、上から与えられた物に過ぎない。
いきなり高級品を与えられた幼児のようなものだ。
だから価値もわからず腐敗させてしまうのだろう。
政治はなんだかんだ言っても、やっぱり全国民の体質が反映されているわけで、自分も含めて、もっと皆が政治に関心を持って、イカン政治家は当選させないようにしない事には、決して治らない体質なんだろう。
そもそも日本の政治制度も学校で教えてない(ちゅーか教わってないよ?)ぐらいだからなあ。
よく国民は騙されてるなんて言うけれど、騙す奴らに権力を与えているのは国民なわけだし。
民主主義ってなんだか、ちゃんと答えられますか?
「鼻行類~新しく発見された哺乳類の構造と生活」
鼻行類~新しく発見された哺乳類の構造と生活
ハラルト・シュテュンプケ(著) 平凡社
太平洋のハイアイアイ群島にかつて生息していた、異様な進化を遂げた生物=鼻行類について詳細な研究をつづった学術書です。
鼻行類とは、その名の通り特異に進化した鼻をもち、鼻で様々な活動(象のように鼻で物を掴んだりするだけでなく、鼻で歩いたり獲物を取ったりする!)をする哺乳類のひとつで、食虫目のトガリネズミなどに近い。和名はハナアルキ。その多様性や進化の不思議さは、まさに生命の神秘といえる。
残念ながら、この群島の生物達は某国の核実験により絶滅してしまったため、彼らの生態や特徴は、今となっては本書で知ることができるのみとなっています。
この貴重な本の和訳は、1987年に思索社から出されたのを皮切りに、博品社から、そして平凡社からと、出版社を渡り歩いて次々出されてきました。それだけ多くの人に支持され読まれてきたわけでしょう。
特異な進化を遂げた絶滅種ということで人目を惹いたたんなる学術書と言われる向きもあるかもしれませんが、無謀な核実験のことや、原始より地域的に隔離されていたため起きた独自の進化と、原住民の抵抗力の低さなど、(原住民は、西洋人の持ち込んだ病原菌であっけなく死に絶えてしまったという)、多くの事を考えさせられます。
読めば読むほど進化の不思議さと力強さを感じさせてくれる良書。平凡社版は840円という、この手の本としては破格の値段設定なので、ぜひ見つけたら購入する事をオススメします。(他の版は皆絶版で入手困難なんですよー)
「人生に必要な知恵は すべて幼稚園の砂場で学んだ」
「人生に必要な知恵は すべて幼稚園の砂場で学んだ」
ロバート・フルガム 著 /池央耿 訳出版社:河出書房新社ISBN:4309461484
「人のものを盗らないほうが良い」「人の作ったものは壊さないほうがいい」「借りたら返す」等等といった対人関係の基礎を、幼稚園の砂場という小さな小さなコミュニティで人は学ぶことができたはず。
今の世の中は複雑になりすぎているけれど、ちょっと振り返って、そのころ学んだことを思い出してみないか?そうやって単純に考えてみれば、実はとてもシンプルに生きることができる。小さな頃にすでに学んだ事、みなわかってることを、実践するかどうかなんだ。
と、言うのが主題のエッセイ、それが本書の表題作である。
ほんのりと口あたりの良い文章で綴られた数々のエッセイは、著者が日々の生活の中で感じた事を書きためていたメモなのだそうだ。熟年に達する頃まで、べつだん他人に見せるつもりもなくつれづれに書かれたこのメモ。著者が講師を勤めるジュニアスクールの構内新聞の穴埋めにちょっと載せてみたところ、それを偶然見かけた父兄の間で口伝えに広がっていき、しまいには本にまとめられ・・・。気がついたら全米ベストセラーとなってしまったのだそうだ。
まあもともと学校新聞に掲載したぐらいなので、簡単な文章で書かれているところが日頃本など読まない層に受け入れられたのかもしれない。しかし、現代人がともすれば忘れがちな社会の基本道徳をやさしく教えてくれているのは大きく評価できる。
詰まらない日常を楽しむ方法、健やかに幸福に生きる方法。それぞれ、ウンウンと頷かせてくれる。ま、教えてくれると言っても、良くある幸せになるためのマニュアル本とは違う。金言集、というか信条集(クルド)であり、読みやすいエッセイ集になっている。
それぞれの文章を読むたび、人生は素晴らしい、人間も捨てたもんじゃないね。そう思わせてくれます。
まあ、さっくり読めるので、見かけたら表題作を立ち読みでもしてみてください。